最終更新日:2023年6月27日

個人再生は全ての債権者を平等に扱う必要があります。一部の借金のみ優先的に返済を行うことを「偏頗弁済」(へんぱべんさい)といいます。個人再生では偏波弁済は禁止です。

偏波弁済をすると、返済額が上がったり、手続ができなくなったりします。偏波弁済が許されないのは相手が家族でも同じです。

目次

個人再生とは

個人再生とは、裁判所に申し立てを行い借金を大幅に減額する手続きです。

個人再生で再生計画の認可が得られれば、減額後の借金を3~5年で分割で支払います。支払いが終わると残りの借金は支払義務がなくなります。

元々の借金額 支払額
100万円以上
~500万円以下
100万円
500万円超
~1,500万円以下
借金総額の
5分の1
1,500万円超
~3,000万円以下
300万円
3,000万円超
~5,000万円未満
借金総額の
10分の1
  • 「上記支払額」より「お持ちの財産の総額」が多い場合、「お持ちの財産の総額」を支払う必要があります。
  • 住宅ローンがある場合、住宅ローンは別途支払う必要があります。

偏波弁済とは

個人再生は借金を減額する手続きです。債権者からみると、債権者に泣いてもらう手続きです。そのため、一部の債権者だけをえこひいきすることは禁止です。債権者平等の原則といいます。

偏頗弁済とは、債権者平等の原則に違反して、一部の債権者に優先的に返済することです。具体的には、支払不能状態後の返済は、偏波弁済となる可能性が高いです。

よくあるのは、家族から借りたお金や連帯保証人付の借金です。

個人再生の手続で迷惑をかけたくない気持ちから、個人再生手続によらずに返済してしまうというものです。しかし、偏頗弁済と判断されると個人再生の手続きが進まなくなるおそれがありますので要注意です。

偏波弁済による影響

では、偏波弁済をしてしまうとどうなるでしょうか?偏波弁済をすると次のようなデメリットがあります。

  • 個人再生後の返済額が増える
  • そもそも個人再生を認めてもらえない

個人再生後の返済額が増える

偏頗弁済に充てたお金は、本来は他の債権者への返済に充てることもできたお金です。また、禁止されている偏波弁済をしなければ本人の手元に残っていたはずのお金です。

そのため、個人再生で返済金額を決めるとき、偏波弁済をした金額は本人の手元に残っているとして扱います。

つまり、偏頗弁済の金額を、個人再生を行う本人の「清算価値(資産総額)」に上乗せします。

たとえば、次の事例で見てみましょう。

  • 弁護士に依頼前の借金総額は700万円(金融機関500万円、家族200万円)
  • 弁護士に依頼後に家族に200万円を返済
  • 現在の借金総額は500万円
  • 手元のお金は現在0円

500万円の借金は個人再生により100万円に減るのが原則です。しかし、偏波弁済を行った200万円は本人の手元にある財産とみなされます。そのため、最低でも200万円は支払わなければいけません。

個人再生を認めてもらえない

返済額が増えるだけではありません。偏頗弁済があると再生計画案が認可されなくなるおそれもあります。

再生計画案とは、個人再生による借金減額や分割払いを含めた新たな返済計画です。偏頗弁済の金額を無視した再生計画は債権者の一般の利益に反する可能性が高いです。そのため、再生計画案が認可されないおそれもあります。

偏波弁済は行わないのが一番です。もし知らずに行ってしまったときは、事実は隠さずに弁護士に相談し、適切な手続きを行いましょう。

偏波弁済はバレる?

では、偏波弁済はバレるものでしょうか?

個人再生の申立は、過去の通帳のコピーや家計収支表等を裁判所に提出する必要があります。

通帳の出金額が、家計収支表上の支出額と整合しない場合で考えてみましょう。

「何に使ったのか?」と裁判所は説明を求めます。通帳記載の送金履歴は、特に個人宛のときは返済や財産隠しが疑われやすいです。説明ができないと手続きが進みません。

また、個人再生はどこからいくらお金を借りているか一覧にまとめて報告します。一覧表は、現在の債権残高のほか、借入始期や終期、最終弁済日も記載します。最終弁済日の記載等から偏波弁済が発覚することもあります。

偏波弁済は発覚する可能性が高いです。そのため①偏波弁済はしないこと、②してしまった偏波弁済は正確に報告することを強くおすすめします。

偏波弁済にならない支払

では、支払っても偏波弁済にならない支払はどのようなものがあるでしょうか?

次のような支払は偏波弁済に原則なりません。

  • ①住宅ローンの支払
  • ②税金や社会保険料
  • ③毎月の賃料や水道光熱費
  • ④共益債権

①住宅ローンの支払

個人再生で住宅ローン特則を利用するとき、住宅ローンの支払いは偏波弁済になりません。滞納せずにきちんと払いましょう。

②税金や社会保険料など

税金や社会保険料は、支払っても偏波弁済になりません。特別に他の債権者よりも優先して支払ってよい規定になっています。

③毎月の賃料や水道光熱費

毎月新たに発生する賃料や水道光熱費等の料金を支払うことは偏波弁済になりません。ただし、滞納しているものを支払うと偏波弁済になることがあります。

④共益債権

すべての債権者の共同の利益のため、先立って支払いしてもよい費用です。個人再生のために裁判所に支払う費用や弁護士費用は支払っても偏波弁済になりません。

どうしても返済したい場合

個人再生手続きの前に債務者本人の財産から返済するとどうしても偏波弁済になります。

どうしても迷惑をかけたくない債権者がいる場合、家族や親族に代わりに支払ってもらう方法も選択肢の1つです。

まとめ:個人再生を依頼後に家族に返済をしてしまった場合

個人再生は全ての債権者を平等に扱う必要があります。一部の借金のみ優先的に返済を行うことを「偏頗弁済」といいます。個人再生では偏波弁済は禁止です。

偏波弁済をすると、返済額が上がったり、手続ができなくなったりしますので注意しましょう。

(監修者:弁護士 坂口香澄