最終更新日:2023年5月26日
一定の事由が発生すると、それまで経過してきた時効期間が一旦リセットされ、またゼロから時効期間がスタートするという制度です。
2020年4月以降の民法では、「時効の更新」と言います。
目次
「時効の中断」と民法改正
2020年改正前の民法(旧民法)では、時効の中断に関する条文がありました。
「時効の中断」とは、一定の事由が発生すると、それまで経過してきた時効期間が一旦リセットされ、またゼロから時効期間がスタートするという制度です。
これと似た制度で、旧民法では「時効の停止」という制度もありました。これは、一定の事由が発生するとその間時効の進行が一時的にストップするというものです。
2020年の民法改正により、これらは、「時効の更新」と「時効の完成猶予」に変更され、内容が整理されました。
したがって、改正後の民法では、「時効の中断」とは言わずに、「時効の更新」と言うことになりました。以下、「消滅時効の更新」について説明します。
時効の更新とは
(1) 時効の更新とは、一定の事由が発生すると、それまで経過してきた時効期間が一旦リセットされ、またゼロから時効期間がスタートするという制度です。
たとえば、Yさんが交通事故を起こして、Xさんの自動車を壊してしまったという事案を考えます。XさんはYさんに対して、不法行為に基づく損害賠償請求権を有することになります。
このような損害賠償請求権は、消滅時効の期間が3年間とされています。
つまり、Xさんが3年間損害賠償請求権を行使しないでいると、Yさんが消滅時効の援用をした場合には、Xさんの損害賠償請求権が消えてしまい、Xさんは請求できなくなってしまいます(時効消滅)。
仮に、2年6ヶ月が経過した時点で、Xさんが時効更新の手続きを取ると、それまでの2年6ヶ月は一旦リセットされ、時効期間がゼロに戻ることになります。これが「時効の更新」の制度になります。
(2) それでは、どのような手続きを取ると「時効の更新」となるのかについて説明します。
時効の更新が認められる手続は、以下の3つの方法が定められています。
- ① 裁判上の請求等(民法147条)
- ② 強制執行等(民法148条)
- ③ 承認(民法152条)
以下、これらの手続きについて説明します。
(3) ①裁判上の請求等(民法147条)
裁判上の請求等、すなわち、ア 訴訟上の請求(訴訟提起による請求)、イ 支払督促、ウ 訴え提起前の和解(民事訴訟法275条1項)・民事調停・家事調停、エ 破産・再生・会社更生手続きへの参加が行われ、かつ、判決が確定するなど権利が確定した場合には、確定した時点でゼロから時効期間がスタートします。
なお、権利が確定する前であっても、ア~エの手続きが行われた時点で、「時効の完成猶予」(一定の事由が発生するとその間時効の進行が一時的にストップする制度)が認められます。
(4) ②強制執行等(民法148条)
強制執行等、すなわち、ア 強制執行、イ 担保権の実行、ウ 民事執行法195条による競売、エ 財産開示手続きが行われ、かつ、その手続きが終了した場合には、終了した時点でゼロから時効期間がスタートします。
なお、手続きが終了する前であっても、ア~エの手続きが行われた時点で、「時効の完成猶予」が認められます。
(5) ③承認による更新(民法152条)
消滅時効における承認とは、時効によって利益を受ける者が、時効によって権利を喪失することになる者に対して、その権利の存在を認めることをいいます。
たとえば、先ほどの交通事故の例でいいますと、YさんがXさんに対して、Xさんがもっている損害賠償請求権の存在を認めることが「承認」の例となります。
「承認」の方法については、法律に規定はありませんが、書面で債権の存在を認め支払う意思を示すことや、債務を一部弁済すること、支払いの猶予を求めることも「承認」に該当するとされています。
まとめ
消滅時効の更新(旧民法の「時効の中断」)の制度は、権利者にとっては、自己の権利が消滅してしまうことを防止するための制度であり、重要な制度といえます。
説明してきました時効の更新の手続きにつきましては、正確かつ確実に行う必要があります。時効に関して不安な点がある場合には、早めに弁護士に相談されることをお勧めします。
(監修者:弁護士 前田徹)